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第2話  

作者: リンフェイ
「もう決めたことですから、後悔なんてしませんよ」

 内海唯花も何日も悩んだうえで決断した。一度決めたからには決して後悔などしないのだ。

 結城理仁は彼女のその言葉を聞くと、もう何も言わずに自分が用意してきた書類を出して役所の職員の前に置いた。

 内海唯花も同じようにした。

 こうして二人は迅速に結婚の手続きを終えた。それは十分にも満たない短い時間だった。

 内海唯花が結婚の証明書類を受け取った後、結城理仁はズボンのポケットから準備していた鍵を取り出し唯花に手渡して言った。「俺の家はトキワ・フラワーガーデンにある。祖母から君は星城高校の前に書店を開いていると聞いた。俺の家は君の店からそんなに遠くない。バスで十分ほどで着くだろう」

 「車の免許を持っているか?持っているなら車を買おう。頭金は俺が出すから、君は毎月ローンを返せばいい。車があれば通勤に便利だろうからな」

 「俺は仕事が忙しい。毎日朝早く夜は遅い。出張に行くこともある。君は自分の事は自分でやってくれ、俺のことは気にしなくていい。必要な金は毎月十日の給料日に君に送金するよ」

 「それから、面倒事を避けるために、今は結婚したことは誰にも言わないでくれ」

 結城理仁は会社で下に命令するのが習慣になっているのだろう。内海唯花の返事を待たず一連の言葉を吐き捨てていった。

 内海唯花は姉が自分のために義兄と喧嘩するのをこれ以上見たくないため喜んでスピード結婚を受け入れた。姉を安心させるために彼女は結婚して姉の家から引っ越す必要があったのだ。これからはルームメイトのような関係でこの男と一緒に過ごすだけでいいのだ。

 結城理仁が自分から家の鍵を差し出したので、彼女も遠慮なくそれを受け取った。

 「車の免許は持ってますけど、今は車を買う必要はないです。毎日電動バイクで通勤していますし、最近新しいバッテリーに交換したばかりです。乗らないともったいないでしょう」

 「あの、結城さん、私たち出費の半分を私も負担する必要がありますか?」

 姉夫婦とは情がある関係といえども、義兄は出費の半分を出すように要求してきた。いつも姉のほうが苦労していないのに得をしていると思っているのだろう。

 子供の世話をし、買い物に行ってご飯を作り、掃除をするのにどれほど時間がかかるか知りもしないだろう。自分でやったことのない男は妻が家にいて子供の面倒をみて、ご飯を作るのは楽なことだと思っているのだ。

 彼女と結城理仁はスピード結婚だ。今日初めてお互いに顔を合わせた仲なのだから、出費は半々にするのが気が楽だろう。

 結城理仁は考えもせず低い声で言った。「俺はもう君と結婚したんだ。君を養う能力はあるし、家のことも問題ない。君はお金を出さなくていい」

 内海唯花は笑って言った。「じゃあ、あなたの言うとおりにしますね」

 彼女も言われるまま甘い汁を吸い、全くお金を出さないわけではなかった。

 彼の家に住み、必要なものは自分で買えばいいのだ。

 どのみち、すでに家賃は節約できているのだから。

 お互いに出す必要なものは出し、相手を気遣うことで一緒に生活することができるのだ。

 結城理仁はまた右手の時計で時間を確認し、内海唯花にこう告げた。「俺は忙しい、会社に戻らなくてはいけない。俺の車を運転して家に帰るといい。もしくはタクシーで帰ってもいいぞ。タクシー代は俺が出そう。祖母を弟のところに送ってくる」

 「そうだ、LINEを交換してくれないか?すぐ連絡できるように」

 内海唯花は携帯を取り出し、結城理仁とLINE交換した後に言った。「タクシーで帰りますから、私のことは気にしないでください」

 「わかった。何かあったら連絡してくれ」

 結城理仁は車に乗る前に、内海唯花に四千円のタクシー代を渡した。彼女は断ろうとしたが、彼の自分を見つめる視線に無意識にこのお金を受け取った。

 結婚手続きを終えたばかりの新婚同士は一緒に役所から出ず、結城理仁だけが先に出てきた。

 彼は役所を出てまっすぐに車へと戻った。

 「私の孫娘は?」

 結城おばあさんは自分の孫だけが出てきたのを見て、疑いの眼差しで尋ねた。「あなたたち一緒に入って行ったじゃないの。どうして一緒じゃないの?あなた結婚を取り消したのね。それとも内海さんのほうがかしら?」

 結城理仁はシートベルトを締めると、自分の結婚証明の書類を取り出し、振り向いておばあさんに手渡した。「結婚手続きはしたよ。俺は仕事が忙しいから今すぐ戻って会議をしないと。彼女には四千円渡しておいた。タクシーで帰るそうだ。

 「ばあちゃん、あそこの交差点のところまで車で送るよ。あとはボディーガードに家まで送らせるから」

 「あなた、いくら忙しいからって唯花ちゃんを一人置いていけるわけないでしょう。まだ発車しないで、唯花ちゃんが出てきたら、彼女を先に家まで送ってから、あなたは会社に行きなさい」

 そう結城おばあさんは言いながら車を降りようとしたのだが、車はロックされていた。

 「ばあちゃんの言うとおりに彼女と結婚しただろう。他のことに口を挟まないでくれよ。結婚したんだから一緒に生活するんだ。これからの生活は責任を持つから。それから、彼女がどんな人間なのかゆっくり見させてもらう。彼女の人となりがわかるまでは俺は彼女とは本当の夫婦にはならないからな」

 「......我が結城家の男子は絶対に離婚なんてしないわ!」

 「それなら、ばあちゃんが選んでくれた妻に俺が一生をかけるほどの価値があるかどうかだ」

 結城理仁はそう言いながら車を運転した。

 「このバカ孫息子、あんたみたいな夫がいる?結婚したばかりだっていうのに新婚の妻を置き去りにして自分だけ車で行っちゃうなんて」

 結城おばあさんはこの孫が許せる限界は、内海唯花と結婚手続きをするところまでだとわかっていた。他のことに関しては彼は一歩も譲らないのだ。彼女は彼にはお手上げだった。あまりにやりすぎると、この孫は内海唯花に一生一人暮らしをさせるだろう。彼女の行為が内海唯花を害するわけだ。

 結城理仁は祖母の好きなように怒られておいた。

 内海唯花が本当に良い人であれば、彼女を幸せにしてあげるつもりだ。もし普段良い人を装っておばあさんを騙しているのなら、半年後、彼は彼女と離婚しようと思っていた。どうせ彼は彼女には指一本触れないし、結婚も隠しているのだから、彼女が離婚したとしても他の誰か良い人を見つけて結婚できるだろう。

 車は十分ほど走ると、十字路で止まった。

 そこには何台もの高級車が駐車してあった。その中の一台はロールスロイスだった。

 結城理仁は車を路肩に止めると、車から降りてそこにいたボディーガードに車の鍵を渡して言いつけた。「おばあ様を家まで送ってくれ」

 「私は帰らないわよ。あなたと一緒に住んで義理の孫娘の傍にいるわ」

 結城おばあさんは引き下がらなかった。

 しかし、彼女の大切な孫息子はすでにロールスロイスに乗り込み、おばあさんの抗議には耳を貸さなかった。

 彼女はただ目を見開き孫が高級車に乗って、見向きもせずに立ち去るのを見ているしかなかった。

 結城理仁は実は東京の商業界の大金持ちの息子で、東京の億万長者である富豪の御曹司だった!

 「このバカ孫息子、冷たい人なんだから!」

 結城おばあさんは孫に一言文句を言い、ぶつぶつ呟いて言った。「いつかあなたが唯花ちゃんを溺愛する日がくるといいわ。おばあちゃんは座ってあなたが死ぬほど後悔するのを見てやるんだから」

 引き続き怒っていても孫を呼び戻すことはできないので、おばあさんは内海唯花に急いで電話をかけた。内海唯花はすでにタクシーに乗って家に帰る途中だった。

 「唯花ちゃん、理仁くんは仕事が本当に忙しいみたいなの、彼と喧嘩しないでね」

 内海唯花はズボンのポケットにしまった結婚証明書類を触り言った。「おばあさん、わかっています。私は気にしていませんよ。おばあさんも気にとめないでください。彼はタクシー代をくれました。私は今家に帰る途中です」

 「結婚したというのに、まだ結城おばあさんと私を呼ぶのかい?」

 内海唯花は一瞬戸惑い、おばあちゃんと言い直した。

 おばあさんは嬉しそうに応えて言った。

 「唯花ちゃん、これからは家族よ。理仁くんがもしあなたをいじめたら、おばあちゃんに言ってね。あなたの代わりに叱ってあげるから」

 やっとのことで手に入れた孫娘なのだから、おばあさんは孫が唯花をいじめるのを許さないようだった。

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    「さ、仕事を続けて」おばあさんはこれ以上孫の邪魔をしなかった。おばあさんと孫は電話を切った後、結城理仁は携帯をデスクの上に置き、黒い社長椅子の背もたれに寄りかかり、右手の肘を椅子の肘掛けに置き、下あごを触った。少しザラザラしていた。また髭を剃らなければならないようだ。神崎姫華と妻は本当に仲を深めていっている。どうにかしてこの二人の関係を壊さないでいいだろうか?二人がこのままどんどん仲良くなっていき、親友になるのを見過ごしていると、彼が内海唯花に正体を明かした時、神崎姫華は唯花が恋敵だと知り、激怒するに決まっている。その怒りが収まらず、内海唯花に復讐をするかもしれない。だが、彼がいるのだから、絶対に神崎姫華に内海唯花を傷つけさせない。結城理仁はただ少し考えて、この考えを消してしまった。結城理仁は妻一人守れないような人間ではない。どうして神崎姫華ごときを恐れなければならないのだ?彼女たちが仲良くなるというなら、勝手に仲良くなればいいのだ。今のところ神崎姫華と仲良くしておくのは内海唯花に対しても良いことだろう。少なくとも神崎姫華は彼女の後ろ盾になってくれる。彼が裏で何かをしても、それは神崎姫華がやったことだとみんなが思ってくれれば、彼の正体を隠すのに都合がいい。結城理仁は彼が内海唯花の交友関係をコントロールできないと認めなかった。……「すみませんが、あなたのその見た目ではうちの条件には合いません。もっと自分に合う条件の会社を探されてはどうでしょうか」佐々木唯月がまだ座っていないのに、面接官のスタイルの良い女性が彼女の履歴書を唯月に突き返した。その女性の目には嫌悪の色がうかがえた。佐々木唯月は驚き、顔をすぐに紅潮させ、その女性が返してきた履歴書を受け取った。何度も面接に行ったが、今回の面接官の物言いは、かなり直接的だった。直接彼女の容姿が彼らの求める役職には合わないと言ってきたのだ。彼女は財務部の一般社員の面接に来た。以前、財務部長をしていた彼女にとって、これは条件的にはかなり譲歩したものだったのだが、それでも拒否されてしまった。自分の履歴書を握り締め、佐々木唯月はなんとか笑顔を作って面接官に尋ねた。「あの、私の見た目がどう条件に合っていないのでしょうか?」その女性は佐々木唯月のふくよかな体を見て言

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    「神崎さん、唯花、あなた達はお話してて。私は陽ちゃんを連れてスーパーに買い物に行ってくるから」冷蔵庫の中にはまだたくさん神崎姫華が持って来た魚介類が入っていた。今日もまた海鮮料理を味わうことができるが、野菜が足りない。牧野明凛は佐々木陽を抱っこして買い物に出かけた。佐々木陽は抱っこされて店から出る時に後ろを振り向いて神崎姫華を見た。神崎姫華は笑って言った。「唯花、あなたの甥っ子ちゃん、ほんとにカワイイわね」「やんちゃだけどね」「今の子ってみんなやんちゃでしょ。次に来る時は甥っ子ちゃんにおもちゃ買ってきてあげるわね」「神崎さん、いいの、陽はたくさんおもちゃがあるから。うちの旦那もたくさん買ってくれたし」神崎姫華は「あなたたちが買ったものはあなたたちのでしょ。私は自分で買ったものをあげたいの。あの子のこと気に入っちゃったから、たっくさん買ってあげたいのよ。もし私の甥っ子だったら、この世界すらも彼のおもちゃにしてあげるんだから」と言った。これは子供を溺愛するタイプだ。諦めよう。牧野明凛が佐々木陽を連れて出かけた後、内海唯花はキッチンへと行き、炊飯器でご飯を炊き始めた。そして神崎姫華に尋ねた。「神崎さん、お昼はここでご飯を食べていく?ただの家庭料理だから、あなたの口に合うかどうかわからないし、どうするかあなたが決めてね」内海唯花は自分の料理の腕には自信があった。しかし、神崎姫華が彼女が作る家庭料理に食べ慣れているかはわからなかったのだ。神崎姫華は少し考えてから言った。「またの機会にするわ。私、朝また結城社長を待っていたんだけど、会えなかったの。だから、後でスカイロイヤルホテルに行って、彼を待ってみることにする。彼は毎日あそこでご飯を食べているから」内海唯花は笑って言った。「わかった。頑張ってね。早く結城社長に振り向いてもらえたらいいね」「うん、私頑張る」結城理仁の話題になり、女性二人はまた話し始めた。そして、この時、外には一台の車がやって来ていた。それは結城おばあさんの車だ。もちろん、結城理仁が金持ちであることを隠しているから、新しく買った中古車でやって来た。しかし、おばあさんは車を降りた時に店の前に止めてある神崎姫華の車を見て、すぐにまた車の中に戻り、運転手を急かした。「早く車を出して、出して」あの神崎家

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第299話

    内海智文は何も言えなかった。内海唯花の話を借りて言えば、今回の件が彼ら全員の利益に悪影響を及ばしていなければ彼らは絶対に頭を下げることはないのだ。頭を下げたとしても、それは本心からではない。毎回内海唯花のところに来るたびに簡単に唯花を怒らせてしまう。結果、浜野社長が言ったように、本来とても簡単な事が意外にも彼らを複雑にさせていた。今になっても、解決ができていない。「唯花は神崎さんとどう知り合ったんだ?何が愛の策士だよ?」内海智文は嘲笑するような顔で言った。「神崎さんは結城家の坊ちゃんに熱を上げているだろう。たぶん唯花が彼女にどうやって結城社長を落とせばいいか教えてやったんだろ。神崎さんの背後で策を練って結城社長に付き纏わせているのが内海唯花だと知れば、あの女はもう終わりだ」「俺はあの二人がどうやって知り合ったのかって聞いたんだ。神崎さんの身分を考えてみろ、あの二人は先祖子孫の代々まで共通点なんかありっこないだろ」内海智明は唯花が神崎姫華と知り合いであることを羨ましく思った。しかも神崎姫華から守られているんだぞ。神崎姫華が神崎グループで何の役職にも就いていないことを甘く見てはいけない。彼女は神崎家の令嬢なのだから、それだけで十分だ。彼女の実の兄は星城で最も優秀な大物社長の一人なのだから。「あの二人がどうやって知り合ったかなんてわかるわけないだろ。急に唯花に対抗できる方法を思いついたぞ。しかも、あの女と神崎さんの関係もぶち壊せる方法をな」内海智明もバカではない。「お前、結城社長のとこに言って、全てをばらすってか?だけど、お前が彼に会えるのか?彼に会うためには、どんな奴でもアポを取ってないと無理らしいぞ。しかもそもそもアポが取れるかどうかも怪しいってのに。アポ取るのにかなりの手続きが必要で、しかもある人物からの審査が通ってはじめて彼に会うことができるんだぞ。聞いたところによると、結城グループで長年働いている社員ですら、結城社長に会えないらしい」トップクラスの富豪である結城家の御曹司は彼ら普通のビジネスマンたちからすると、まるで神様のような存在だった。彼の噂を聞くことはできても、結城御曹司本人に会うことはできないのだ。内海智明は彼がもし結城御曹司に出会う機会があれば、土下座してまでも彼に取り入りたいと思った。「俺は結城社長

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第298話

    神崎姫華が放り投げたあの果物と籠も内海智明は拾って去っていった。ひと籠五千円ほどするのだ。持って帰って自分たちで食べよう。内海唯花なんかにあげてたまるものか。それを聞いたら内海唯花は果物くらい自分で買えると不満を言うだろう。内海智文は智明の車に乗って来ていた。車に乗ると、彼は急いで自分の上司であるあの浜野社長に電話をかけて、さっき起こったことを説明した。ただ、浜野社長はその時すでに本社から連絡を受けていて、内海智文が説明し終わる前に残念な様子で言った。「智文、お前と二人の従姉妹とのわだかまりはそんなに難しい話じゃないだろう。解決しようと思えば簡単にできたはずだ。お前たちが姉妹に謝って、しっかり誠意を見せて、それからネット上で謝罪文を公開すればよかったんだ。そうすれば姉妹から許してもらえるだけでなく、世間のみんなもお前たちがしっかり過ちを認めて反省しているとわかり、これ以上は騒がなかっただろう。だが、お前たちは何をした?お前を停職処分に留めてから結構時間が経ったというのに、まだ今回のことを解決できていないばかりでなく、逆に悪化する一方じゃないか。神崎さんを怒らせて、本社もお前に失望したぞ。時間を作って会社に行って仕事の引継ぎをしてくれ。暫くは仕事探しはするなよ。神崎さんが怒っているから、ここ星城で良い仕事を見つけようと思ったって、難しいはずだ。「社長、浜野社長、私は……」浜野社長は電話を切ってしまった。内海智文はあまりの怒りで携帯を投げてしまいそうだった。内海唯花と神崎姫華が仲が良いなどと彼が知るはずないだろう?それから彼が二言三言彼女を脅した言葉を神崎姫華にちょうどタイミング良く聞かれるなんて思ってもいなかったのだし。内海智明は車を運転しながら従弟に尋ねた。「弁解の余地はないのか?」「会社に戻って引継ぎをしろって言われたよ。浜野社長が神崎さんに手を回されたら良い仕事が見つからないから暫くの間は新しい仕事を探さないほうがいいって」内海智文は憤慨していた。内海智明も非常に腹を立てていた。神崎お嬢様はまるで理屈が通じない人だと思っていた。彼らを恥知らずな人間だと責めていたが、そういう彼女のほうも人のことが言えないだろう?ただ自分の身分を頼りに、彼らを見下しているだけだ。暫くして、内海智文は怒りのこもった声

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第297話

    電話の向こうの神崎玲凰は、この可愛い妹をどうすることもできなかった。彼はどうしようもなく尋ねた。「内海智文がどうお前を怒らせたんだ?」「唯花は私のお友達で、愛の策士よ。あいつがその彼女にお店を潰すだの、徒党を組んで唯花のネットショップにクレーム入れて潰すだの言ってきたの。つまりこいつはこの私に喧嘩売ってるってことでしょ?あいつら一族がやってることって、人間がやることなの?私たち神崎グループにこのようなクソ管理職がいたら、世間から非難されちゃうわよ。ホント、人って見かけによらないわね。まともそうに見えて、実は腹黒なのよね」「……」神崎玲凰は妹の横暴さに言葉を詰まらせて何も言えなかった。アーロン基板株式会社の社長が本社に報告していた。内海智文は確かに有能な人間で、彼はアーロン基板で平社員から今の副社長の座までのし上がったのだ。一歩ずつ一歩ずつ努力してきた。社長は内海智文の親戚内での騒動で有能なやり手を失いたくなかった。だから、ネットでまだ炎上している時は彼に対して停職処分という形をとって、内海智文を解雇しなかったのだ。内海智文は神崎姫華の話を聞いて、顔が真っ青になっていた。彼はこの時理解した。内海唯花の後ろ盾は牧野明凛ではなく、神崎姫華だったのだと。彼は牧野明凛の家はただの成金で金持ちになっただけで、そんなに権力を持っていないから、彼ら一族にそこまで大きな影響を及ぼすことはできないと思っていた。その後ろ盾が神崎姫華であるのなら、納得がいく。神崎姫華の身分と神崎グループでの地位があれば、彼ら一族をどん底まで落とすことなど余裕でできるだろう。「神崎さん……」「だまりなさい。私はあんたみたいな陰険な奴の話なんか聞きたくないの!あんた達一族は唯花のご両親が亡くなった時の賠償金を使ってここまでやって来られたのでしょう。それなのに、唯花姉妹にヒドイことしてさ。あんた達、唯花のご両親が化けて出てこないか怖くないわけ?」神崎姫華は星城の社交界において、評判はあまり良くなかった。彼女はいつも理不尽な態度を取るからだ。しかし、彼女は根っから悪い人間であるわけではない。内海唯花と知り合いになっていなくても、彼女も内海智文一族がやったことに反吐が出る。「兄さん、何か言ってよ!」神崎玲凰は仕方なく言った。「わかったよ。兄ちゃんが浜野

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第296話

    「本当に俺らがやり合うことになれば、共倒れになるまで続くぞ。お前が有利な立場に立てるとでも思ってんのか?こんな店、経営できなくなるだけじゃなく、ネットショップもやばいことになるぞ。ネットショップの評価を下げて、クレームつけりゃあ、閉店に追い込むことだってできるんだからな。「唯花、一体どこのどなたがあなたの店を潰してネットショップにクレームつけるですって?」神崎姫華が内海唯花に会いに来た。車を降りると店に入る前に内海智文のあの偉そうな声で脅迫する言葉が聞こえてきた。神崎家のお嬢様は短気なお方だから、それを聞いた瞬間に怒りを爆発させた。内海唯花が彼女の愛の策士だということを知らないのか?よくも彼女の策士を脅迫するような度胸があったものだ。そんなことをすれば、神崎姫華があっという間に彼らのような恥知らずの偉そうな奴らを叩きのめしてくれよう。神崎姫華はカフェ・ルナカルドに行って買って来たお菓子を持って、車の鍵を指でぶらぶらさせながら、あごを上げ店に入ってきた。他の者は神崎姫華のことを知らなかったが、内海智文は神崎グループ傘下である子会社で働いているし、彼は管理職だから、会社の年会で遠くから神崎姫華を見かけたことがあり、彼女のことを覚えていた。この時、神崎姫華が入って来て、内海智文の顔色が一瞬で変わった。彼は停職処分にされてから今に至るまで会社に戻れない理由がわかっていた。多くのネット民から裏切られた後、こんな恥知らずの人間を会社に留めておけば遅かれ早かれ大きな災いになるから、さっさと本社は彼を解雇するべきだとリプライされたのだった。しかし、その主な理由は神崎姫華と結城理仁のゴシップ記事の注目を彼のツイートが奪い、彼女の怒りを買ったせいだった。今、結城グループ及び神崎グループで働く人は、神崎姫華が結城理仁に片思いをしていて、熱烈に彼を追いかけているのを知っている。「か、神崎さん」「内海智文は笑顔を作り、彼女のほうへと向かっていき、まるで飼いならされた犬のようにへこへこしていた。「神崎さんがどうしてこちらに?」神崎姫華は彼を一瞥し「あんた誰よ?犬みたいに邪魔しないで、さっさとどきなさいよ!」と言った。内海智文は急いでそこを退いて、神崎姫華の邪魔にならないようにすると、依然として満面の笑みを作り自己紹介した。「神崎さん、私は

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第295話

    内海智文は少し黙ってから彼女に尋ねた。「だったら、俺らにどうしてほしいんだ?」「唯花」内海智明は年上の従兄であることを笠に着て内海唯花に説教を始めた。「以前、俺たちがどれだけ仲違いしていたとしても、家族だろう。三番目のおじさんはこの世にはいないが、それでも実のおじである事実は変わらないじゃないか。確かに以前は俺たちが間違っていた。今は自分たちの過ちに気付いているんだ。君は心が広く寛大な人だからきっと俺達を許してくれるだろ?今後は君たちにあんなことはしないって約束するからさ」ネットの力を借りるのは手っ取り早い。しかし、簡単に立場が逆転して損をしてしまう。今日、彼らがネットを利用して従姉妹をネット暴力に遭わせても、明日は彼らがその目に遭ってしまうのだ。自分も同じような目に遭わなければその気持ちがわからない。ネット暴力が如何なるものなのか、ネット民たちに罵らせ、責められるのがどんな苦しみなのかを。内海唯花がツイッターにあげたあの反撃以降、彼ら一族たちはもっとひどい目に遭ってしまった。仕事を失った者も、商売がうまくいかなくなった者もいる。契約済だった仕事は全て破棄され、それ以外にも、評判はガタ落ちだった。彼ら一族の者たちは最近、ほとんど寝られなくなっていた。もちろん、その多くの理由は怒り狂っていたからだ。どうやって内海唯花姉妹に損をさせるかを常に考えているおかげで眠れなくなっている。内海唯花は、はははと冷たく笑って言った。「私は心が狭くて、度量の小さい人間だし、ずっと恨み続ける性格なのよね。当初あんた達は私とお姉ちゃんにあんなことして、死ぬまで追い詰めようとしたくせに、立場が逆転してから自分たちが優勢に立てないとわかったとたんに、腰を低くし始めたよね。ううん、腰を低くはしてないわ。あんた達が今日謝りに来たのも、ネット民にすごく罵られたからでしょ。そのせいで自分たちが不利になったから、こうやって来たはずよ。あんた達はただ自分たちの利益のために腰を低くして見せているだけ。過去の過ちを認めて後悔したから謝りに来たんじゃないわ」彼女をバカだと思っているのか?彼女にそれがわからないとでも?最初にいとこ達数人が和解するためにやって来て、おばあさんのお見舞いに来てほしいと言ってきたのも、それを動画に撮ってネットにアップし、ネット民た

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第294話

    数台の車がやって来て、内海唯花が経営する店の前で止まった。さっき店に戻ったばかりの二人はその数台の車を見た。内海唯花の目はよく利き、その数台の車が彼女のあのいとこたちのだと気づいた。その瞬間、彼女の顔は曇った。こいつらまだ懲りてないのか!内海智明を筆頭に内海家の若い世代が店へと入ってきた。彼らは手には果物が入った籠をぶら下げていた。「唯花」内海智明は笑顔で手に持ったその果物の籠をレジ台の上に置くと、内海唯花に言った。「新鮮なフルーツを買ってきたんだ。お姉さんと一緒に食べてくれ」佐々木陽を見て彼は尋ねた。「その子は君の姉さんの息子さんだろ。お姉さんに似ているな」そう言いながら、彼は佐々木陽の頭を撫でようとしたが、佐々木陽はその手を避けて触らせなかった。内海智明は笑いながら「ボク、怖くないよ。俺は君のおじさんなんだ」と言った。他の人たちも手に持っていた果物の籠をレジ台に置き、そこに収まりきれなかった籠は地面に置いた。内海唯花は冷たく尋ねた。「あんた達、ここに何の用?お金なら、諦めたほうがいいわよ」「唯花、座って話さないか?」内海智文はその傲慢な態度に笑顔の仮面をつけていた。彼はこの世代では一番能力が高く、年収は二千万ある。それ故、彼は最もプライドが高いのだ。はじめて内海唯花に会いに来た時は、彼はほとんどちゃんと内海唯花の顔を見て話をしなかった。今、彼は停職処分にされて久しい。いつになったら会社に戻れるのかまだわからない。そのまま会社をクビになる可能性も否定できない状態だった。それから彼の兄弟たち、そして父親の世代も仕事や自分たちの商売もうまくいっていない。もし彼らにある程度の蓄えがなかったら、もう今頃破産しているだろう。なんとか今もっているが、彼らももう長くはもたないようだ。もしこれ以上内海唯花姉妹と和解できなければ、彼らが親子二代に渡って築き上げてきた家業は、もう終わりかもしれない。それから、一番下の従弟である内海陸が勾留されている件で、彼らが従弟を解放してあげたいと思ってもだめで、お金を出しても許されなかった。これは絶対に内海唯花の後ろ盾になっている人物の仕業だ。兄弟数人と父親世代たちが相談した後、まずは内海唯花姉妹と和解し、それから唯花の後ろにいるその人物は誰なのか探ろうということになった

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